2008年10月13日月曜日

HD素材のアイドルDVDでカラリングを施してみた

★全HD素材のアイドルDVDの仕事来ました。

まだまだSD映像の仕事ばかりとは言え、HDへの対応も現実的・実際的に考え始めないといけないなと思う昨今。たまに短い尺でHD素材を試したりもしてきたが、ついに来ました全素材がHDの編集仕事。とはいっても納品はやはりSDですが。
それは久々のタレントDVDのまるごと編集仕事。今回の素材はほとんどがHDV、それに僕が撮影したDVCPRO HDが少し混ざっているという全素材がHD。今までHD素材を使用しても尺が短かったので力技で何とかしてきたが、今回は完成尺45-50分ぐらいのもの、力技では対応しきれない。そこで編集を始める前に(実際は始めながら)自分なりに今回のワークフローを考えてみることにした。


★HDVを粗編してSD サイズに。コーデックApple ProRes 422を試す。

1)FinalCutでHDVのまま粗編する。
2)そのままHDVコーデックで粗編をQuickTimeに書き出す。
3)それをshakeに入れてFileInのTimingタブのパラメータ(そして、その中のconvertのパラメータ)をいじって720*480(スクイーズの16:9)に変換を設定。ここでの目的は、インターレースを除去しつつ効果的に縮小化し、綺麗なSD素材に変換すること。
4)そして、FileOutで書き出し。なのであるが、ここで何のコーデックで書き出すかが問題。

さて、どうするか。

今回のDVDは写真集の付録なのだが、当の写真が非常に個性的なルックを持っている。写真集を刊行する編集部からも「同じような効果を映像では可能?」とやんわりオーダーされている。大幅なカラリングをするのであれば、素材は極力綺麗なコーデックのほうがいい。ここで「DVCAM納品」だからとDV圧縮を選んでしまえば、カラリングでの表現の可能性は狭くなってしまうだろう。
そこで、「非圧縮4:2:2」を試してみた。悪くない。縮小することで得られた画質向上は維持されていると思う。問題は重い。FinalCutに取り込んで編集を試みたが、なんとも足回りが悪く、編集をつめていくには大きなストレスとなる。今回は致命的。
DV(4:1:1)ぐらい足回りが軽くて、DVより画質の良いコーデックはないのか?と調べるとすぐに「Apple ProRes 422」が目を引いた。さっそく「非圧縮4:2:2」と比較してみる。同じ絵をそれぞれのコーデック変換したものを比べても目視レベルでは全く同じ。互いの差をとり、さらにレベル補正で強引に持ち上げて、やっと微妙な違いが判別できる程度。そして編集の足回り、これも良かった。DV編集と変わらぬぐらいの軽やかさだ。というわけで、今回はApple ProResコーデックで中間素材を扱っていくことにする。
というわけで、先の手順の続きを、少しダブらせて続ける。

4)そして、FileOutでApple ProRes 422コーデックのSDで書き出し。

この「HDV→DVサイズのAppleProRes」のリサイズは時間がかかった。shakeでの変換のパラメータはデフォルトの処理時間かからない設定で行ったのだが、現在最新のMacProにおいても1分の変換に約36分。20分の変換をしたら、さらにだんだんスピードが落ちていき、1日半かかってしまった。長すぎ。

話を作業進行に戻す。

5)SD(Apple ProRes 422)に変換したQuickTimeを再びFinalCutProに戻す。Apple ProRes設定のシーケンスにそれを敷く。ただそのままだと、一本化されていてカットの区切りが分からないので、元のHDV粗編を別トラックにコピペして、それを下敷きにAppleProRes素材に切れ目を入れる。
6)(Apple ProRes素材で)編集を仕上げる。

さてカラリングをどうするか問題。


★カラリングを何で行うべきか。そしてグレイン除去も欲しい。

カラリングを何のアプリで行うべきか。ホワイトバランスずれの色調整ぐらいなら、FinalCut内臓のエフェクトのみで対応可能なのだが、完全に創作としてのカラリングとなるとFinalCutでは無理である。
今回の編集に先立つ事一年ほど前に、実は同じ素材を用いて同様の効果を作成したことがある。使用したのはCombustion。同様のCGアプリとして、むしろもっとメジャーなAfterEffectsがあるが、カラリングに関してはCombustionのが向いている。その時はFinalCutからカラリングするカットだけTiff連番で書き出して、WindowsのCombustionに入れて処理し、またTiff連番で書き出してMacのFinalCutに戻していた。連番のやりとりはMacとWinをまたいでも画質はほぼキープされるものの、進行の足回りがひどく悪くなる。短期間&低予算(苦笑)で50分近い尺を扱う今回では非現実的だ。
今回の現実的方向は、可能な限りMac内で全ての処理を完結させること。まずshakeでCombustionで行った処理と同じ事が可能か試してみる。かなり可能そうだが、決定的にshakeのデフォルトに欠けているものがある。 グレイン(フィルムのノイズ粒子)追加のエフェクトはデフォルト搭載されているが、グレイン除去のエフェクトがデフォルトでは搭載していないのである。さて、「ビデオ素材なのに何故フィルムグレイン除去が必要なのか」というと、使用目的はグレイン除去ではなく、肌の質感を良くする為である。女性タレント映像なのでこれはできるだけ押さえておきたい。デフォルト搭載はなくともサードパーティーでは出ているようだが、自分の現状を考えるにそこに高額の投資をするのは的確か疑問。自分でエフェクト開発も一瞬試したが、そう簡単ではなく、今回の限られた時間内では非現実的とすぐに諦める。


★colorを試してみる。

そこでふと思い出したのがFinalCutStudio搭載のcolor。以前、一度軽くいじってみたのだが、パネルが英語のままな事もあり直感操作できないのでさっさと諦めたのだが、グレイン除去のエフェクトもデフォルト搭載されているようだし、何よりFinalCut Studioファミリーのひとつ、ワークフローの足回りを良くするには、うってつけだろう。ここは覚悟して向き合ってみるしかなさそうだ。
マニュアルは日本語版があるので読み始めてみるが、当然かたくて理解するには時間がかかってしまいそう。ざっと全体の概要を掴んでから、かたい詳細を読みたいところである。すると目にとまったのが付属のチュートリアルDVD。普段は素人っぽい気がして見たりしないのだが、ここは謙虚に(?)拝見することにする。そのまま再生したら英語なので一瞬たじろぐが、すぐに日本語に切り替えられることに気づく。非常に短く全体をまとめられていてすごく良い。すでにCombustionでカラリングの基礎知識はあったせいもあって、かなり全体を理解できた。そして、それからじっくりマニュアルに目を通す。結局、目を通すのに2日かかってしまったが、やれる自信がついた。「とにかくいじってみる」から入って仕事として使うようになったCGだが、最近は「じっくり基礎を理解する」から入るのも良いなと思う。
さて、実際にcolorを使ってみてだが、Combustionのカラコレの主要部とshakeの簡易版が組み合わさったような印象を受けた。shakeはすでに開発終了なので、appleはその機能をmotionとcolorに配分するつもりなのかもしれない。Combustionとshakeを使用した経験のある僕としては、作業手順を把握してしまえば、細かい実作業自体は既視感を感じるくらいサクサク進められた。戸惑ったのは、その作業手順である。目的別の作業室がいくつかあり、そのラインを通じて映像を加工する考え方なのだが、これを感覚的に掴むのに少し手間取った。この作業手順は、僕は他では見たことがない。おそらくマニュアルを読まなければ理解できなかったと思うが、分かってしまえば非常に理に適った手順である。気に入った。もっと使ってみたいと思った。ひとつ残念なのが、僕のマシンだと内部演算を8bitでした行えないこと。floatまではいかずとも、16bitでは行えるようにもしておきたい。僕のグラボは購入時にカスタムで選択したもので、デフォルトのものではない。どうやらデフォルトのグラボでないと内部演算の選択肢に制限があるようなのだ。この事はあまり注意事項として大きく表記されていないので、少し問題ではないかと思う。それとも、まだ開発間もないソフトなので、近々にも対応予定なのだろうか。

それでは、手順の続き

7)FinalCutから編集したシーケンスごとcolorに送信。

8)colorにてカラリング。レンダリング。

9)colorからFinalCutに送信。FinalCut内にカラリング済みの新たなシーケンスが作られる。

10)再生チェック。

11)もし、colorで再修正したい場合は、colorの該当プロジェクト上で修正し、修正箇所をレンダリング。すると、FinalCut側は最新レンダリングを反映してくれる。

12)もし、編集を少し変えたいときは、そのままカラリング済のシーケンスを編集。さらにcolorでの再調整も反映される。ただ大きな編集直しは、colorとの連動を壊しかねないので避けたい。編集を固めてからカラリングすべき。

13)あとはシーケンスを出力形式に合わせた形に変換。今回はDV形式で書き出した。DV形式のシーケンスに配置しなおすのもありだと思う。ただここで、プログレッシブ素材がインターレース素材と誤認された上で、プログレッシブのシーケンスに配置されないように注意。FinalCutの自動判別に任せていると、意外と発生しやすい。これは解像度が落ちたような画質劣化につながる。


★ShakeとApple ProRes 422の不和?

新たにApple ProResコーデックとcolorをワークフローに取り入れて、想像以上に可能性が広がったのだが、同時に疑問点もでてきた。
今回の素材はHDV以外に、1シーンのみDVCPRO HD 24pで撮られている。これをcolorでカラリングし、他と同じくApple ProRes422コーデックでFinalCutのシーケンスに渡した。最終書き出しは60iのDVCAMなので、このカラリングされたシーケンスをプルダウンする必要がある。そこで、FinalCutからApple ProRess 422でシーケンス全体を書き出し、それをshakeにてプルダウン処理し、Apple ProRess 422でFinalCutに戻そうとした。これがうまくいかない。画像がカラーノイズになってしまうのである。色々試してみたところ、どうやらshakeはApple ProRess 422の出力には対応しているが、入力には対応していないようだ。(*追記下部にあり)ネットで調べてみると、海外でも同様の疑問を持った人がいたようで、その人はファイルをブートディスクに置いたらうまくいったような事を書いていた(英語なので理解不完全)が、僕の場合、それでもうまくいかなかった。しかたないので、ここは重くても非圧縮4:2:2コーデックを使用し、再実行。今度はうまくいく。


★Apple ProRess 422で分からない点

先のshakeとの相性もそうだが、Apple ProRess 422で分からない点がいくつかある。
ムービーの書き出しとしてApple ProRess 422設定を選ぶ場合、設定のウィンドウにおいてCompressorという項目があり、Interlaceの選択肢と、ChromaFilterのチェックボックスがあり、これらの効果に関する記載が、少なくとも日本語では見当たらない。軽く、それらの選択肢オンオフを切り替えた画像を比較してみたが、非常に微妙な違である。単に、ファイルサイズを小さくするための圧縮手段の選択肢なのだろうか。前述のshakeとの不和を調べていた時に見た海外掲示板では、これらをオンにすると、書き出しの時間が倍増するような事が書いてあったが、これは未検証。
あと、今回使用したApple ProRess 422はApple ProRess 422(HQ)というほうなのだが、shakeで書き出したものと、FinalCutで書き出したものが、FinalCutのファイル分析にかけると、前者は(最高品質)と表示され、後者は(中品質)と表記されるのである。書き出しの時に品質選択はないようなので、いったいどこでこの差が生まれるのか分からないし、実際の画質を見る限り差があるように思えない。それどころか、中品質とされるほうのがビットレートが高い場合するある。いったい、この(最高品質)(中品質)は何を意味しているのだろうか。


★その効果のほどは。宣伝と余談。

来月11月11日に学研から発売される写真集『雫-しずる-』(写真家・長野博文氏)の付録DVDにて効果のほど確認できます。7人の若手新進女優を長野さん独特の透明感あふれる質感で捉えた写真集です。今回のカラリングは、長野さんの写真の魅力的な質感という、リファレンスというには眩しい目標を参照させていただきながらの作業だからこそ可能だったのだと思います。ありがとうございます。
ちなみに今回僕が撮影したのは、とある一人のパートのみ。あとは『好夏』のプロデューサーでもある一木氏が自らSonyのHDVカメラで撮影しています。撮影好きの一木氏ですが、氏の素材がこれだけ占めるDVDも少ないのでは。と思ったら他にもありました。『好夏』のメイキングDVDです。

<後日の追記です>
上記の「どうやらshakeはApple ProRess 422の出力には対応しているが、入力には対応していないようだ」の件について追記。
先日、Appleのプロアプリケーションアップデートの項目に珍しくshakeが入っていたので、もしやと思いアップデートしてみたところ、上記の件、どうやら対応されたようだ。精査こそまだしていないが、一見したところ問題なさそうである。
合わせてcolorもアップデートあったのだが、例のグラボとの相性はそのままらしく、うちのMacでは8bit演算のみの状態。。。。